05.金髪ちょんまげくん








「あっ、ナマエー!」


朝、寮を出てすぐに後方から呼ぶ声がした。
振り向けば、男子寮の玄関から此方へ駆けてくるふたつの金髪が揺れている。


「おはよーナマエ!」
「おはようナルト、と……」


ひとつは見慣れた私の従兄弟。
そしてもうひとつ、見慣れない長い黄色が風に靡く。
顔の左半分を覆うように垂れた前髪に、丁髷みたいに天辺で結ったハーフアップの長髪。
確か、高等部から入ってきた、同じクラスの……


「えっと…デイダラくん、だっけ?」
「おう!デイダラでいいぜ、うん!」


きらきらと朝日を受けて鮮やかに輝く金髪を揺らして、デイダラが私に手を差し出す。
宜しく、と言い合って握手を交わしてから、学校へ向かう足を進めた。


「二人とも、もう仲良くなったの?」
「へへっ、まーな!」
「寮の部屋が隣になったんだよ、うん」
「そうだったんだ」


話しながら、二人は私を挟むように陣取って歩き出す。
…そういえば、イタチ兄とサスケや、サクラといのと歩く時も、いつも私が真ん中なんだよね。
前にサクラに訊いてみたら、なんか危なっかしいから、とか言われたっけ。
別に私そんなにふらふら歩いてないよ!多分!
でもサクラ達やナルトだけでなく、会って間もないデイダラにまで挟まれるって事は、私はだいぶ間抜けにみえるんだろうか…?


「……なあ、ナマエ。ひとつ聞いていいか?」
「え、うん?なーに?」


ふと、デイダラが何やら深刻そうな声音で訊ねる。
斜めになっていた思考を戻してデイダラの顔を見上げれば、デイダラは何故か眉を寄せて私の顔をじっと見ていた。
え、何、そんな真面目な顔して、何を言われるの?






「ナマエって、あのサスケって奴と、つ……付き合ってんのか?うん…?」
「…へ?」


恐る恐る紡がれた質問に、思わず間抜けな声が出た。
その内容に一瞬そういう類いのジョークか何かかと思ったが、彼は未だに至極真面目な顔で私を見ている。
どうやら冗談ではなく、昨日のあれを見ていた故の素直な疑問のようだ。
一拍遅れて返答しようと口を開けば、反対側のナルトが先に叫んだ。


「そ、そうなのかナマエ!?そんなの聞いてないってばよ!」
「え?いや、違うよ!」
「ナマエに彼氏なんてまだ早いってばよ!!しかもよりによってサスケって!サスケって!!」
「ちょっと落ち着いてナルト!?」


話も聞かず興奮気味に捲し立てるナルトを、口を塞いで無理矢理押さえ付ける。
誰もそんなこと言ってないでしょ!
あんたは私の父親か!


「んで、結局どうなんだよ、うん?」

ナルトをべしっと叩く私を、デイダラの大きな瞳が隣から覗き込む。
男の子なのに可愛い顔してるなあ、とか思いながら、その問いにゆるく首を振った。


「サスケはそんなんじゃないよ。ただの幼馴染み!」
「……本当に?」
「本当に!」
「でも、昨日は抱き付いたりしてたじゃねーか、うん?」
「あれは、あの子の癖っていうかなんていうか…サスケは昔から、何かあればすぐ抱き付いてきたからさ」


そう、あれは云わば癖だ。
事ある毎に私やイタチ兄に抱き付くのは、物心付く前からのサスケの癖のようなものなのだ。
小さい頃に一度訊いてみたら、彼はへにゃりとした今では考えられないような天使の笑顔で、なんとなく安心するから、となんとも可愛らしい返答をくれたのを覚えている。


「じゃあ、アイツが彼氏って訳じゃねーんだな?うん?」
「まさか!そもそも彼氏居ないし、サスケはそんなんじゃないよ!まあ、強いて言うなら……弟かな?」









ばさっ、




「ん?」

言い終わると同時に、背後から何かが落ちる音がした。
振り向いてみれば、足元に鞄を転がしたサスケが、すごい顔で立ち尽くしている。
なんていうか、絶望的というか、悲壮的というか……表情が歪みすぎてて、あれっこれ本当にサスケ?って感じの、ほんと、すごい顔。
ファンの皆様には見せられないやつだ。


「さ、サスケ…?」
「……れは…」
「え?」
「俺はナマエの弟、だったのか…?」
「…はい?」


絞り出した声は、表情と同じくらい悲痛が滲み出ている。
ていうか、今にも泣きそう。
長い間会ってなかったとはいえ、こんなサスケは珍しい。
いや、寧ろ初めてなんじゃないか…?


「えっと、ちょっと待って、どしたのサスケ!?」
「ナマエにとって…俺は弟でしかない、のか…?」
「え、いや弟っていうか…ええと…」


どうしよう、どうすればいいんだこれ。
助けを求めて両隣を見ても、ナルトもデイダラもニヤニヤして見てるだけで何も口を出さない。
あれ、なんか顔に"ざまあ"とか書いてる気がする。
ていうか、ボソッて聞こえた。
おいやめろナルト。


「ええと…あっ、弟って言われたのが嫌だったの?ごめんね、別に子供っぽいとか年下みたいだとか、そういう意味じゃないのよ?」
「…じゃあ…どういう意味なんだよ…?」
「それは、その…ほ、ほら、サスケってさ、昔から一緒だし、よく甘えてくるし…兄弟みたいに仲良しの親友だよって意味!」


よし、私にしてはよく出来たフォローだ。完璧だ。
と思った私をよそに、サスケの涙腺は遂に崩壊してしまった。





「ナマエのウスラトンカチいいぃぃぃぃぃい!!」
「えっ!?ちょっとサスケェ!?」


泣きながらそう叫んだサスケは、呆然とする私と何故か嬉しそうなナルトとデイダラを残して、どこかへと走り去っていった。










金髪ちょんまげくん


(さ、サスケ…どうしたんだろう、ほんと…)
(へん、ざまあみろってばよー)
(……つーか、じゃあオイラにも充分チャンスはあるよな、うん!)
(させねえってばよ!?)